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平成27年12月23日 3首

卒業

にんじんの皮を剥こうとする彼の左効きの手大きく見えぬ

8年のひきこもりを捨て今ここに生きる若者前だけを向け

はにかんで小さな花束手にしてる卒業の日は希望がともり

# by poroporotanka | 2015-12-23 08:55 | 短歌

平成26年4月6日 3首



いつだって賢い人であったのに娘2人にいい顔をしだし

老いたらば子に従えと言うけれどなにも今ではないのじゃないか

友がゆく列車が通る窓ガラス葉桜うつり緑が伸びぬ

# by poroporotanka | 2014-04-05 23:02

平成26年4月2日 18首

蟻焼

浅間麓焚き火に飽いた少女の眼蟻焼をして愉しんでおり

疾風はうすばかげろう連れ去りぬ名もなききのこの胞子のうえに

牛虻を十六始末し窓外を見やれば遠き八ヶ岳なり

蜘蛛の巣が窓に張りつく早朝の空気は凍れりうすらいのごと

雀蜂軒下にある脳髄の巣から聴こえるストラヴィンスキー

蟻行列我の身体を迂回するガリバーのまなぶた大きく閉じて

沓掛という名がありし軽井沢神馬の沓を捧げたろうか

並行しリス走りのぼる松の枝ぽきぽき折りて薪にくべたり

マッチより臭気がのぼりてふと街の排気ガスを懐かしむ我

落雷の火山の麓の響きには仔犬ふるふるふるえる尻尾

夕映えの淋しき顔の少年をふと我が兄と思い直したり

小浅間にのぼりて黒き山肌に少女の顔が現れては消ゆ

さむざむと侵入しては朝になりさわやかと思う山の冷気よ

疎開先雛人形も戦争をくぐり抜けるも邪気を帯びたり

たっぷりと窓に向かいて山の気を吸い取るごとし祖母の肺胞

桃の肌産毛をさすりさすりしてふいに指さす悪者の我

好奇心一晩見たし溶岩の瑞光ありてああ光苔

朱の色の草の汁つく手をかざし血潮がうねり透けるは怖れ

# by poroporotanka | 2014-04-02 00:38

平成26年3月30日 7首

春塵

欲しいもの持ちつくしたる彼の指砂が落ちても掴まんとする

春塵がまつげに落ちてみあげれば雲の向こうに山際蒼く

さようならまたきてさんかくこんにちはそしてさよならスピリチュアリティ

錯覚の真人間を生きている哀しいまでの未処理の感情

何千と言葉を紡いで更新すブログ依存の人の性かな

真夜中に春雷ありて切り裂かれ枯れ木となったアボガド憐れ

ぽろぽろと言葉のそとへこぼれてく言葉にしてはならないそれは

# by poroporotanka | 2014-03-26 21:28

平成23年12月 50首

アスマの夏
喘息発作で臨死体験をして詠む

満月の三十二歳の誕生日 サイレン響く暗闇坂下

点滴針刺してさけない人間袋苦楽はすべて内側にあり

ソラ豆のごとき膿盆かきいだきビルの赤い点滅生きる

なんという植物なるかこのからだ蔓のごとくチューブは生えぬ

医師の声高波となりまっすぐとあたりて床にしづかに落ちぬ

花束を持つには大きすぎる手と手のあいだの無は言表わせぬ

捨てられた朝刊夕刊そこにあり活字もまもなく死のうとしている

薬飲む一杯の水に今朝の光やどりてたのしむ病人の性

花の香にむせかえる我衰えし午後花禁止令を出されたり

光感ずるまなぶたの動揺を生きてることのあかしと触れる

点滴のいってきいってき速めればだたそこにある時もてき、てき

ベッド上安静とかれ窓辺にはひっそりとした空気を揺する風

数億の微生物の誕生に吐き気を覚ゆ明け方のテレヴィ

盛夏夜苦しみありて見た夢は我を荒れ野へいざなえし旅

窓越しに悲哀せる者あらわれてトランペットを吹くはマイルス

我が旅のいまだ到達せざる道 広がる荒れ野へ向かっていくか

ひかり苔香りが混濁かきまわす白衣の母がかたわらに立つ

サファイアのピアスを耳に持つ猫のうしろ姿はデジタルな動き

飼い犬がみどり色で窓辺に来たる我を見つめて色だけ残る

ひとつ眼の猫が我に向かいきてそのまま皮膚を通過していく

なみだ壺横目で眺めそのなかのルルドの水に奇跡ありやと

水クラゲ沈んで浮かぶ冥界に藍より透明詩人のごとく

光衰え聖書の表紙重くなり罪とともに右手寄り添う

世を超えて人の哀しみわけわけしこれからももっと生きよ若者

死は来たる確実に来たるいつ来たるそれでも生きてるまだ生きている

死の手前たんぽぽ畑の楽見れば怖れは神に預けてもよし

荘厳な鐘の音ききし我が左耳 悪にも神のはたらきありと

暗い朝無限のときの先端にいさぎよくなめられし心地せり

回廊に光さしたる午後三時 まったり動かぬ院内気体

あかりつけレントゲン見る医師の目に我が肋骨は小さく曲がりぬ

看護婦の白き衣のそのからだ血潮はながれるどっとの奔流

脈拍をはかる小さきクリップのハートのしるしに悪態をつく

黙過する私服に着替えし医師の背によろこびありて不安を感ず

夏の空高所恐怖の雲ありて悟空もすいとのれる高さに

チョコレイトぱっきり折りてしみじみと舌のうえで溶かす喜び

毎日を新しくするすうすうと雨にぬれた緑を欲す

蜃気楼墓地下通りをゆらめかせたましいとおる阿修羅のごとく

水たまり路上の油をまいていき螺鈿のごとき彩あらわれぬ

晴れた日は笑いながらも泣いている『笛吹き少年』あっさりと立つ

友の絵の青が迎えし部屋に座す ミネラルウォーターに雲ひとつあり

ほおづきをひとつ落としてみんとする 暗闇坂に朱のためいき落つ

黒猫が眼下をよぎりし真昼間の白き太陽かげを落とさず

水ゆたかに放ちたりベランダの狭き空に哀しみがいっぱいで

原不安ひとりしづかに咳をして死ぬのはひとり時は知らずに

喜びは自分の居場所のありしこと 来たる夜さえ忘れておれば

ひとりねの寝入りばなの恐ろしさ明日の朝目覚めるか我  

発作時の悪しき記憶をシロで消し赤子のように自分をいだく  

寒くなる真夏の夜の午前二時マリアもソフィアも守ってくだされ  

新月に爪を切っては思い出す「爪切り玉」をくれた妙子よ  

今ここが天国なりとおもうとき生を愛するものになりけり

# by poroporotanka | 2011-12-14 01:52